桜道

愛した記憶は
砂のように
さらさらと
指をすり抜ける。

でも、
愛された記憶は
身体にじんわりと
いつのまにか染みこみ、
消えることがない。

何度、
くりかえし夜がきても。
3回目の
桜が
道路を白に塗り替えても。
髪を
何度切っても。

君のいない世界で
僕は
ずっと
ひとりで
ズボンの裾をぎゅっと掴んで
ひっそりと
君が愛してくれた
あの夏の日の中で
ずっと今日まで
ひとりぼっちで
待っているんだ。

君の手の感触も、
髪の匂いも
最後に
君が流した涙も、
全部そのまま覚えているには
あまりにも
時間が経ちすぎて

すべてを
一ミリも
忘れないと
決めたのに
すくっても
すくっても
さらさらと
記憶は風にとばされて
覆い被さって
必死でかき集めても
もう、
はっきりと
思い出せなくなってきちゃったんだよ。

君を失った日に
怖くて眠れずに
朝になった
あの日の朝の
空けていく
あの青色の中で
ブルブルと
ただ
君のいなくなった世界に
まだ
馴染めずに
ふるえてるんだ。

色を完全に失った世界に
馴染めずに
ここまで
ひとりで
うまく
やってきたのに。

消えないんだよ。
どんなに
苦しいくて
忘れたくて
忘れたくて

無理矢理に目をぎゅっとつぶって
強引に
朝をひきよせようとしても
忘れられなくて
思い出すんだ。
君がやさしくしてくれたすべて、
君が愛してくれたことすべて
身体に染みこんだ
君のやさしさが
じんわりと色を移す。

僕にとって
はじめて
弱くてもろい自分を含めて
人を愛し、愛されるというという意味を
感じたのは
君だったんだ。

君にとっては
ただの幼い恋に
過ぎなかったのかもしれない。
つながることのない
過去の点。
線になって
未来へも
過去にも
つながらない
孤立した
ただの
ちっぽけな点だったのかもしれない。

けれど
僕に君が描いた点は
とても
大きくて
塗りつぶされた黒は
空虚な
深い深い闇を残した。

そのことを
君は
きっと
永遠に知ることはない。

だって
僕は
過ぎ去った
ただの曖昧な
記憶にすぎないのだから。

僕の匂いも
感触も
笑った顔も

君は忘れる

まるで
僕たちは
出会ってなんかなかったみたいに
いつものように
笑うのだ。

愛されなけばよかった。
ただ
欲望だけだったら
ただ
好奇心だけだったら
こんなにも
きっと
苦しくはなかったのに。

いつか
愛しいひとは
どんなに愛しても
どんなに
がんばっても
つながれた手をほどき、
僕を好きじゃなくなって
僕を置き去りにして
いなくなるのだと

僕の脳に
新しいプログラムが
打ち込まれてしまった。

だから
怖いんだ。
ずっと
怖いんだ。
ただ
怖い。
もう、
この夜に
ひとりで置き去りに
されるのが
ただ、
こわいよ。

何にも悪いことをしてないのに。

どんなに
強くなったって
愛された記憶があるかぎり
僕は
夜におきざりのまま
ただ
抱きしめて眠ってくれる
身体を探しに
よるを彷徨う。
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by 1egg2min | 2005-04-17 03:09 | TEXT


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